たぱぞうの米国株投資

米国株投資ブログ。某投資顧問のアドバイザー。メディア実績/日経マネー・ヴェリタス・CNBC・ザイなど

金融審議会、市場ワーキング・グループの報告がおもしろい

金融審議会、市場ワーキング・グループの報告が出ました。

 金融審議会とは、内閣総理大臣、財務大臣、金融庁長官の諮問機関です。

 

 ざっくりいうと、保険や預金、投資について話し合って、「こんな現状だからこうしたらどうかな」という提案を政府にする組織です。

 

 報告書の「はじめに」から引用します。

 我が国には 1,700 兆円を超える家計金融資産が蓄積されているが、現状はその過半が現預金であり、米英に比べ株式・投資信託等の割合は低い。こうした違いが影響して、過去における我が国の家計金融資産の伸びは、米英に比べ低い水準にとどまっており、家計の安定的な資産形成が図られているとは言い難い状況にある。

 

 こういう問題意識があります。そこで、審議会が報告書を出して、状況を改善していくための方法を探って行くということです。預金から投資へ流れを変えることは、国民1人ひとりの将来設計にとって必須になりつつあります。しかし、それを受け入れる素地が十分でないので、整備していこうとしています。

 

 森信親金融庁長官が就任して以来、日本の投資の現状を踏まえた先見性ある提案がされています。とても興味深いものが多いです。毎年2回程度報告が出ており、投資をする人にとっては必読と言って良いでしょう。

 

 なお、過去の報告はこちらで確認することができます。

 金融審議会 : 金融庁

金融審議会、市場ワーキング・グループの報告の骨子

 以下のような項目からなります

  1. 顧客本位の業務運営
  2. 資産形成におけるETFの活用
  3. 取引の高速化への対応
  4. 取引所グループの業務範囲
  5. 市場間競争と取引所外の取引

 です。特に私たち市井の投資家にとって大きいのは1,2ではないでしょうか。以下、少し掘り下げてみます。

顧客本位の業務運営とは

 顧客本位の業務運営というのはフィデューシャリー・デューティーと言われるものです。報告書ではこのような提案をしています。

 

  1. 当局による「顧客本位の業務運営に関する原則」の策定、金融事業者に対する受け入れの呼びかけ
  2. 金融事業者による原則への取組方針や取組状況の策定・公表
  3. 顧客の主体的な行動による、2で示された情報等に基づく、より良い取組みを行う金融事業者の選択
  4. 当局によるモニタリング

 

 つまり、金融庁が金融機関に業務の原則を示して、それがちゃんと行われているか報告をさせ、お墨付きを与えつつ、ちゃんと行っているかモニターしていくということです。

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※金融庁のサイトから

 

 たとえばろくでもない投信をつくり、手数料稼ぎで顧客に販売し、販売手数料をしこたまとる。そして次はまた新しい投信を買わせ、以前の投信を売らせる。こういう回転売買による利益追求などはこの真逆ということです。

 

 一度買ったら安定的に分配金を出し、着実に値上がりもする、そういう商品が理想です。いわば、業者と購入者が共存共栄の関係になるような形です。

 

 日本の金融商品が今まで欧米に劣ってきたのは、業者のみが利益を出すことに熱心で、顧客が利益を出すことに関心が向いていないようなことが多々あったからです。手数料と回転売買に力を注ぎ、商品そのものの質の向上に力を注いでいないケースがありました。

 

 こういう日本の一部金融業界の後進性は結局は業界全体の成長を阻害するものになります。今後はそれをやめさせ、信頼性を高めていこうということです。年金を始めとする社会保障の先細りが見えてきていますから、自助努力の大きな手段が投資になりつつあります。

 

 株式にしても、投信にしても、日本の金融商品には魅力を感じるものが少なかったので、私はドル転して米国で商品を買っています。もしかしたら、日本円で素晴らしい商品が買える時代が来るのかもしれません。

 

 この数年で手数料だけ見てもかなり良くなりましたから、今後のさらなる改良に期待が膨らみます。

国民の安定的な資産形成における ETF の活用とインデックス運用の位置付け

 報告書では安定的な資産形成の第一にインデックスETFをおいています。ちょっと長いですが引用します。

 国民が安定的な資産形成を行うためには、長期の積立・分散投資が有効と考えられる。投資対象をグローバルに分散させることで世界経済の成長の果実を享受することが可能となり、投資時期の分散(積立投資)により高値掴み等のリスクを軽減できるほか、長期で保有することにより投資リターンの安定化が可能となる。


 これを実現するための運用対象として、ETF(上場投資信託)は、少額でも分散投資が可能であるほか、透明性が高いといったメリットもあると考えられる。また、一般的には、同種の投資信託に比して ETF の方がコストが低いとされている。こうした観点からは、ETF は国民の安定的な資産形成に向けて本来有用な投資商品と考えられる。

 ただ、このETFの課題として

  1. ETF 市場の流動性
  2. ETF の認知度

 を上げています。東証上場のETFによっては、私たち個人投資家レベルの売買でもかなり取引値が飛んでしまうような流動性の低い商品があります。言われるように流動性には大いに課題があると言っていいでしょう。

 

 また、投資に興味のない人たちにとってはETFと言ってもその商品のイメージが湧きません。認知度が低いということです。ETCぐらい認知されれば良いのでしょうけどね。

 

 今後は長期・分散・積立投資における ETF の活用促進をしていくためにも、少額の積立にも対応した手数料や長期に利が乗るような商品開発を促したいと報告ではまとめています。

 

 今のところ、その商品の最右翼がインデックスETFということです。

まとめ

 日本の金融行政が変わり始めています。行政が変われば業者も変わります。私たち消費者にとって選択の幅が増えることは良いことです。自立した将来設計のためにも、顧客本位の商品開発が進むと良いと思います。

 

 株主は企業のお財布、投信は販売手数料で稼いでなんぼ、こういう考えが無くならない限り、日本の金融業界が欧米に追いつくことは望み薄です。金融庁の今後の具体的行動に期待したくなります。