平成28年版厚生労働白書 -人口高齢化を乗り越える社会モデルを考える
「人口高齢化を乗り越える社会モデルを考える」というサブタイトルで厚生労働白書が出しています。2016年10月に出たものです。全体通してなかなか読み応えある白書なのですが、私たちの生活に特に関係する部分を抽出して紹介したいと思います。
平成28年版厚生労働白書 −人口高齢化を乗り越える社会モデルを考える−(本文)|厚生労働省
高齢世代人口と現役世代人口比率
この比率は賦課方式の年金制度を取る日本にとって非常に重要な数字です。なぜなら、労働人口何人で高齢者1名の年金を支えるかということに関係するからです。
現在2.1人の20歳~64歳の人口で65歳以上の人口1人を支えています。これが2050年には1.2人で支えるようになるという予測です。出生率の改善が喫緊の課題であると叫ばれる理由はここにあります。
しかし、出生率の改善は非常に難しいです。経済的あるいは時間的に若い世代はゆとりがないことと、婚姻率そのものが上がってこないからです。
それよりはむしろ、現実的に定年を伸ばし、年金支給年齢を遅らせるほうが簡単かもしれません。もし、定年を70歳にしたならば、70歳以上人口を支えるには1.6人の労働人口で良いことになります。これも苦しい数字ですが、1.2人よりは軽いと言えます。
問題はどこの政党が、どのタイミングで定年と年金支給年齢を遅らせることができるのかということです。厚生労働省がこういう数字を試算しているのは興味深いです。
社会保障費、年金対策はこの3つの手法に注目
肥大する年金対策はいくつかの対策があります。今の現役世代が受給するまでにはこの3つのうちのどれか、あるいは併用して採用されていると思います。
- インフレによる実質減額
- 定年の延長と支給年齢の引き上げ
- 年金額面で大きく減額
1「インフレによる実質減額」は「知らず知らずのうちに」行うことが可能です。じわじわと物価が高くなり、実質的な値下げをするという手法です。アベノミクスによるインフレというのはこういう効果もあります。ただし、そのコントロール可能なインフレがなかなか起こせないというのが難しいところです。
2「定年の延長と支給年齢の引き上げ」は比較的わかりやすいです。厚生労働省はそのためにいろいろな資料を用意して引き上げの方向で働きかけてきました。かつて男性の年金支給は60歳から、女性は55歳からでした。段階的に引き上げられ、今では年金支給は65歳が一般的です。再引き上げは現実的な方法です。
3「年金額面で大きく減額」はこの中で一番可能性が低いです。振り込まれる額が下がる、だれでもわかる減額をすれば大票田である高齢者票を分かりやすい形で失うからです。0.1%の引き下げでさえ、3年ぶりの引き下げと言われ、ニュースになるぐらいです。抜本的な引き下げは非常に難しいでしょう。
だれがやるのか、やれるのか、それも含めて注目されてよい案件ですが、分かりやすい形ではなかなかやれないのが実情です。
投資家必読の資料。他の国との比較
この資料は投資家必読と言って良いでしょう。日本の高齢化率が突出しているのは言うに及ばず、ドイツも高い数字を示しています。このなかで目立つのはアメリカの高齢化率が比較的低いところです。また、イギリス、フランスも思いのほか抑えられています。ともかく、この点からも米国株投資の可能性を感じさせます。
また、新興国というと若く、確かな経済成長が期待できるように思うかもしれません。しかし、そのかつてのイメージにおおむね沿っているのは、インドネシアやインドなど限られた国であることが分かります。中韓などの東アジアは人口ボーナス期間を終えつつあります。2060年にはヨーロッパよりも高齢化社会になります。
中国は1990年あたりから世界経済のエンジンとして消費を引っ張ってきました。この表で見ても分かるように、すでに世界の眼は中国だけでなく、インドにも向きつつあり、次なる世界経済のエンジン探しは始まっています。
今ある大切な資産や国富を有望な国へ投資することが、資産防衛だけでなく生活防衛のの有効な一手になると確信します。
関連記事です。これとセットで読むと、厚労省の意図がより明確になります。
増大する社会保障費、国債費です。
保育料も含めて、子育てにお金がかかりすぎます。高齢者対策と同じぐらいに子育て世代への支援が少子化対策の視点からも必要です。