シーゲル流投資術を考える~やみくもに枯れた銘柄を買えばよいわけではない~
ジェレミー・シーゲル氏は今も現役の大学教授です。経済界、特にマーケットにおけるもっとも有名な人物の1人と言って良いでしょう。実際に、マーケット関連のメディアへの露出も多いですし、著作も良く知られています。
そのため、米国はもちろん日本においても非常に支持者が多く、米国株投資の心のよりどころとしている方も多いのではないでしょうか。ちょっとした調整時に心乱れず、淡々とインカムを取り続ける投資家が増えたのも、シーゲル流投資が浸透したからでしょうか。
いずれにしても、10年あるいは20年まえのうねり取り一辺倒の時代には考えられなかった投資手法です。インデックス投資と並んで長期投資を意識づけたカリスマと言ってよいでしょう。
さて、そんなジェレミー・シーゲル氏ですが、今日は敢えてその投資手法についてコラムを書いてみたいと思います。批判ではなく、今から述べるようなネガティブな要素を踏まえて投資していますか、という軽い確認のようなものですね。
私は人の投資方法について容喙するような性格ではないので、そこは予め触れておきたいと思います。そのうえでお読みいただければ幸いです。
オールドエコノミーを始めとする枯れた銘柄群はバリューなのか
例えばエクソン【XOM】やフィリップモリス【PM】はシーゲル銘柄の代表的なものですね。
エクソンは言わずと知れた石油業界の雄です。フィリップモリスは上場するタバコメーカーではブリティッシュアメリカン【BTI】に次いで大きな規模です。アルトリア【MO】と合わせればトップですね。
これらの銘柄のリターンはこの10年、5年とあまり奮いませんね。エクソンはシェールオイル革命に伴う原油安の波に翻弄されており、フィリップモリスは喫煙者人口の伸び悩みの影響を受けています。ESGの観点からもこれらのセクターは避けられやすいですね。むしろ、資金流出が懸念されるぐらいです。
これらのネガティブな要素は今に始まったことではありません。原油の枯渇懸念やタバコの訴訟リスクなどは、前々から言われていたことです。そのため、これらの銘柄は低PERに据え置かれることが多く、結果として確かな収益、確かなインカムを株価水準の割には多く出してきました。
いわゆる「バリュー株」として扱われてきたわけですね。しかし、昨今ではその事実が知れ渡り、そこそこの人気銘柄として推移してきました。以前のようなバリュー銘柄ではない可能性があり、そこは注意が必要です。
ダウ30種で最もリターンの低い銘柄を買い続けるという「ダウの犬」投資があります。世間に広く知られるようになってからパフォーマンスが落ちたという話ですが、やや似たところがあるかもしれませんね。
このところS&P500やVTIなどにパフォーマンスで劣後するのは、そういうところに起因するのかもしれません。
いかんともしがたい税制の相違、日本からの米国株投資は改善が必要
また、税制の違いも看過できませんね。データはやや古いのですが、金融庁さんに資料をお借りして各国の証券税制の比較をしてみましょう。
見て分かるように米国では年間の401k確定拠出年金枠が49000ドルもあります。500万円超が確定拠出年金枠で運用できるのですね。
ヨーロッパを見てみると、英国では日本のNISAの原型になったISAがありますね。これもおよそ10000ポンド、140万円の年間枠です。20年という縛りはありません。フランスのPEAに至っては、再投資される配当・譲渡益は非課税(年間取得額132,000ユーロ(約1600万円)が上限)ということですね。
これらの非課税口座を使って、配当再投資が可能ということです。つみたてNISAは良い制度ですが、老後の資産運用というのを考えると枠としては全然足りず拡充してほしい制度ですね。
現状、日本の配当金は2割が課税されます。米国株だと米国にて源泉徴収課税が発生しますから、外国税額控除で取り戻しても75%~78%ぐらいが手取りになるのでしょうか。
シーゲル先生の想定するような配当リターンを得るには、投資信託などで非課税繰り延べをせざるを得ません。
いずれにしても、オールドエコノミーの枯れた株を買い、再投資していくというのは、欧米諸国に比べて随分と不利な状況に置かれているというのは知っておいて良いですね。
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シーゲル流投資術を理解するには「株式投資の未来」は必読でしょう。赤本と緑本がありますが、両方とも広く支持を受けています。膨大な過去の資料に基づく結論は説得力があり、日本人も多くのファンがいますね。
バークシャーハサウェイ副会長であるチャーリー・マンガー氏の言葉に焦点を当てた本です。本人の著作ではないので、そこは注意が必要ですが、エッセンスを抜き出しているという意味では目を通して損は無いですね。
銘柄にほれ込んでしまうのは投資効率を落とします。だめなことが分かり切っている銘柄に惚れて、ありもしないストーリーを作って夢を見る。往々にしてありがちです。米国という国単位でもそれはあり得るわけで、客観性は持っておきたいですね。