Jリートとは。その魅力と可能性。
Jリートとは、Japan Real Estate Investment Trustのことです。不動産を証券化し、その証券を投資家が買うことで賃料や売買益を得る仕組みです。個人投資家にとっては、小口で不動産関連商品を買えるメリットがあります。
不動産会社にとっては、バランスシートから物件を切り離せるため、オフバランスできるというメリットがあります。つまり、自社で不動産資産を持ちすぎなくて済むということです。
景気が良い時はさほど問題ありませんが、不景気の時に不良化した資産があると、バランスシートが悪化します。そのため、不動産会社にとって、適度なオフバランスは意味があります。もともと1998年前後の金融危機時にこれが問題になり、Jリートが誕生した背景があります。
日本国債の利回りが低いため、株式以外のペーパーアセットの運用が難しくなっているのが日本の運用の実態です。そのため、生保や銀行などの金融機関も運用先が限られており、地銀などは昨今積極的にJリートを購入しています。
そんなJリートですが、つい先日に不動産証券化協会【ARES】主催の対話会に出席しましたので、その時の様子をお伝えしたいと思います。つみたてNISA説明会の窓口だった、虫取り小僧さんが今回も窓口を務め、たぱぞうとはちどうさんの併せて3人のブロガー、金融庁の職員の方が出席しました。
Jリートの利回りと実態
まず、昨今のJリートの利回りと実態です。
J-REIT市場 |
東証REIT指数 (配当なし) |
投資口価格関連指標 | ||||
銘柄数 | 時価総額 | 指数 | 騰落率(対前月) | 予想分配金利回り | NAV倍率 | |
2018/08 | 60 | 12,642,555 | 1,752.65 | -0.89% | 4.17% | 1.05 |
まず、現在銘柄数は60銘柄あり、時価総額はおよそ12兆あります。取得している不動産の時価はおよそ17兆円ということですから、やや低く見積もられていますね。これが米国リートになると100兆円を超える規模です。世界規模で見ると、米国は世界の6割を占めて1位、日本は2位です。
分配金の平均利回りは直近で4%を超えてきており、インカム銘柄としてはまずまずの水準と言えるでしょう。
ちなみに、NAV倍率というのは株式でいうところのPBR(一株資産)のようなものです。資産価値に対する投資口の価値を示します。
Jリートの物件取得額推移
昨今多いのは、オフィス・物流・ホテルといった案件です。
取得額 | ||||
オフィス | 物流 | ホテル | 合計 | |
2013 | 536,334 | 773,977 | 58,480 | 2,286,539 |
2014 | 775,555 | 214,482 | 83,021 | 1,595,839 |
2015 | 680,342 | 144,315 | 193,730 | 1,597,170 |
2016 | 586,794 | 438,861 | 285,123 | 1,769,243 |
2017 | 323,056 | 330,089 | 313,535 | 1,339,452 |
物流施設は一時期激増していましたが、昨今ではかなり落ち着いてきましたね。対して、インバウンドの影響でしょうか、ホテルがかなり増えています。オフィスは東京を中心に安定的な供給が見られます。
ただし、全体としてはかなり新規の取得は抑えられていますね。Jリートは東京由来が7割を占めますから、昨今の都内の物件の上昇を考えると妥当性はありそうです
Jリートの場合は大手不動産企業との関連が密接であり、親会社からいかにして良い物件を手に入れるかというのがポイントです。
ただし、同時に「本当に良い収益物件は親会社が持ってしまうのではないか」という懸念もあります。また、Jリートが運用を託す運用会社も親会社の子会社であり、頻繁な売買で手数料を稼ぐということも可能です。
ただし、これらの懸念は多くのリートにおいて杞憂であり、世界で最も透明化しているリートの1つとして昨今では評価されています。
東証Jリート指数の推移
東証Jリート指数の推移です。
Jリートの最大の課題がこのチャートにあります。いや、Jリートだけでなく、日本の証券市場の課題と言えるでしょう。2015年から3年間取引値は横ばいです。これは、近年Jリートの一株当たりの価値、バリューそのものがあまり上昇していないことが大きいです。
Jリートは法律上利益の9割を投資家に吐き出します。そうすることによって、法人税がかからないということになっています。実際にはほとんど9割超を利益として吐き出していますが、反面内部留保が高まらないということがあります。
そのため、投資口数を買う、株で言うところの自社株買いによって価値を高めたり、物件取得費に回すということが難しくなっています。物件取得のために増資をする、希釈化をするというのが1つの流れでした。
米国リートは日本ほど親会社とリート投資法人の関係が密接ではなく、機関投資家も多く入っています。飛躍のきっかけになったのは、アップリート制度です。これは、事業法人がリートに物件を売却するときにキャピタルゲイン課税を繰り延べることができる制度です。日本だと物件を売却するときに課税がされます。また、現物出資もできません。
こうした制度に加えて、例えば個人投資家のように数年をまたいで損益通算ができるようになるなどの後押しがあれば、1投資口あたりの価値を高め、魅力ある金融商品になっていくのでしょう。
ただし、これらは税金の繰り延べ操作であり、法人で言うところの経費のコントロールに似たところがあります。1株当たり、1投資口数あたりの本質的な価値を高めるには、当然ですが良い物件を仕入れ、よりよい売却を進めるというところが大事になりますね。
Jリートは今後どのような方向性を目指すのか
あまり知られていませんが、かつて住友不動産や東京建物が自社物件を500万1口、300万1口にして期限付きの債券のような形で販売していました。利回りにして時期にもよりますが、1%から3%半ばというものでした。
物件の値下がりリスクを不動産会社が8割程度まで担保してくれ、投資家は比較的高利回りで安定したインカムを得るという仕組みでした。それは雑所得扱いでしたが、リートは分離課税の対象であり、損益通算もできるので使い勝手は良いですね。
不動産は全て自社で持つと、景気の波に大きく資産が左右されます。そのため、オフバランスをして、バランスシートから資産を切り離す必要があります。オフバランスを図りつつ投資家も利益を得られるような仕組みづくりはウィンウィンとも言えます。
Jリートも今後、利益を吐き出して分配するという方向を基本としつつ、内部留保を高め、多少の景気の上下を飲み込めるようなインカムの平準化をするという方向も探っているようです。
いずれにせよ、日本は債券投資が非常に難しい環境ですから、そういう方向のJリートが生まれても面白いかもしれませんね。
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米国不動産指数に基づいた値動きをする【IYR】です。リーマン後のパフォーマンスは大変良いですね。景気に対する感度は株式以上です。ボラティリティは高めですね。
米国リートに対する考え方ですね。米国の場合はオフィス賃料を始め、上がり続けることが予想されるためによりシンプルに買えます。日系証券会社だと米国の個別のリートは買いにくいところが多いですね。
ただし、毎月分配型のリート投資信託は手出し無用です。元本を削って見せかけの利回りを出しているだけであり、投資運用になりません。