実質GDPの各国比較と株式投資
端的に国の豊かさを示す数字としてGDPがあります。このGDPには名目GDPと実質GDPがあります。名目GDPから物価変動を差し引いたものが実質GDPです。
ある国のGDPが100兆円だとします。翌年120兆円になったとします。名目GDPで算出すると20%の増です。しかし、ある国の物価の値上がり、インフレが10%あったとします。その分を引いた110兆円が実質GDPということになります。実質GDPの伸び率は10%です。
インフレの国は名目GDPが大きく出ます。
デフレの国は名目GDPが小さく出ます。
そのため、実質GDPでの比較のほうが妥当だという考え方もあります。日本の場合はデフレが長く続いていました。それに対してアメリカはインフレが年率2%、これを維持し続けています。そのため、名目GDPで日米比較をすると大きな差がつきます。
※Googleより引用
この表は名目GDPの表です。1995年から横ばいの日本、微増のドイツ、急伸の中国、安定成長の米国という構図になっています。1人当たりのGDPでも殆ど横ばいですから、日本の場合はよく実態を表していると言ってよいでしょう。
また、中国の急伸は一人当たりGDPの成長も伴っており、急激に豊かになったというのは実感されるところです。こうしたことを踏まえてご質問を紹介します。
名目GDPと実質GDPならば実質GDPのほうが信頼できるのでは?
たぱぞう様
いつも記事を拝見させていただいております。とくともうします。
たぱぞう様の影響で私も昨今VTIの購入を開始しました。さて、今回質問させていただきたいのは、アメリカ投資をする際のGDPの考え方についてです。
昨今経済の勉強をしている中で、為替やインフレとの関係性について考えたりしています。
そんな中で質問なのですが、たぱぞう様が例えばこちらの記事で出しているGDP推移なのですが、正確には名目GDPではなく、インフレも考慮した名目GDPで算出しないといけないのではないでしょうか?
例えば、日本は長らくデフレだったためにGDPが成長しなかったわけであり、その影響を考慮すれば割りときちんと成長しているのではと思っています。80年から比較し、それぞれ2倍程度で大差ありません。
つまり、仮に30年前にアメリカ株で資産運用をしていたとしても、インフレで為替は円が強くなってきているため、運用益でみた際にそこまでの大差はないのではと思ったのですが、いかがでしょうか?
お時間ある折に記事上でも良いですのでご回答いただけると勉強になり、とてもうれしく思います。よろしくお願いします。
株式の運用益で見るのは基本は指数
さて、名目GDPと実質GDPなのですが、とくさんの言われるように「日本はデフレだったから、インフレの国との名目GDP比較は不正確である」というご意見は納得できる面があります。
確かに、名目GDPは少々大きく出すぎなのかもしれません。ただ、実質もそこまで信ぴょう性があるかというとどうかな、という感想を持っています。例えば下記はバブル崩壊後である1995年以降、およそ20年の実質GDP推移です。
中国は別格として、米国と英国が近似しています。ほぼ同じです。それにたいして、ドイツ、フランスが殆ど同じ、日本だけがやや落ちて累計で20%増という結果です。
年 | 中国 | 仏国 | ドイツ | 英国 | 米国 | 日本 |
1995 | 10.9 | 2.0 | 1.7 | 3.1 | 2.5 | 1.9 |
1996 | 10.0 | 1.1 | 0.8 | 2.9 | 3.8 | 2.6 |
1997 | 9.3 | 2.2 | 1.7 | 3.4 | 4.5 | 1.6 |
1998 | 7.8 | 3.4 | 1.9 | 3.8 | 4.4 | -2.0 |
1999 | 7.6 | 3.3 | 1.9 | 3.7 | 4.9 | -0.2 |
2000 | 8.4 | 3.7 | 3.1 | 4.5 | 4.2 | 2.3 |
2001 | 8.3 | 1.8 | 1.5 | 3.2 | 1.1 | 0.4 |
2002 | 9.1 | 0.9 | 0.0 | 2.7 | 1.8 | 0.3 |
2003 | 10.0 | 0.9 | -0.4 | 3.5 | 2.6 | 1.7 |
2004 | 10.1 | 2.5 | 1.2 | 3.0 | 3.5 | 2.4 |
2005 | 11.3 | 1.8 | 0.7 | 2.1 | 3.1 | 1.3 |
2006 | 12.7 | 2.5 | 3.7 | 2.6 | 2.7 | 1.7 |
2007 | 14.2 | 2.3 | 3.3 | 3.5 | 1.9 | 2.2 |
2008 | 9.6 | -0.1 | 1.1 | -1.1 | -0.4 | -1.0 |
2009 | 9.2 | -2.7 | -5.1 | -4.4 | -3.5 | -5.5 |
2010 | 10.4 | 1.5 | 3.7 | 1.8 | 3.0 | 4.4 |
2011 | 9.5 | 1.7 | 3.7 | 1.5 | 1.6 | -0.1 |
2012 | 7.9 | 2.1 | 0.7 | 1.3 | 2.2 | 1.5 |
2013 | 7.8 | 0.2 | 0.6 | 1.9 | 1.7 | 2.0 |
2014 | 7.3 | 0.6 | 1.6 | 3.1 | 2.4 | 0.3 |
2015 | 6.9 | 0.9 | 1.5 | 2.2 | 2.6 | 1.2 |
2016 | 6.7 | 1.1 | 1.8 | 1.8 | 1.6 | 1.0 |
累計 | 205.0 | 33.7 | 30.5 | 49.8 | 52.1 | 20.0 |
例えば、GDP全体のことを言えば中国は地方政府が数字を作りすぎているということがありますし、工業生産物の評価に偏りすぎていてサービスの算出が甘いなどの指摘があります。
そもそも名目GDPにしても、実質GDPにしても、その数字の正確さというよりは大まかな傾向をつかむために活用するというのが良いように思います。また、GDP成長は国のざっくりとした経済成長を表しますが、イコールで株式の成長ではないことも注意が必要です。
国の成長の期待されたベトナム株や中国株には、成長の先買いで停滞をしていた時期があります。2000年ごろのITバブルも似たところがありますね。狙いは合っていたのですが、時期尚早で先買いをやりすぎたということです。
そういう意味では、名目・実質GDPでの成長が確認でき、なおかつ株式の成長も過去100年以上にわたって続いている米国というのは外せない投資対象であると言えます。
日本とアメリカの株式の運用パフォーマンスに関してですが、基本的には米国で源泉徴収される米国のほうが不利なはずです。しかし、この30年間高値を抜けない日本市場と毎年高値更新をしている米国市場ではパフォーマンスに大きな差があります。
また、その間のドル円為替相場はほぼ120円から75円のボックスです。これをどう読み解くかということですが、基軸通貨のドルが2%のインフレが続くならばデフレであった円も2%ずつ円高になってもおかしくありません。しかし、そうはなっていません。
実質GDP、ドル円相場、株式市場。これらは完全な相関を示すことはありませんので、複合的に判断していくことが大切だと思います。
投資に関して言うならば、結局は株式市場の指数のパフォーマンスに帰結します。つまり、乱暴ですがS&P500やTOPIXといったインデックスというのは環境や法整備も含めた、それらすべての総和とも言えます。
諸事情考えると米国株投資というのは最も安心できるということですね。
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こちらの主張も似ているのですが、デフレを勘案すると日本株のほうがパフォーマンスが良かったという考えです。私は違うと思っています。
為替リスクがあるから海外投資は危険、という考えがあります。私はこれも違うと思っています。考え方は様々ですね。考え方の多様性というのは大事ですので、いろいろな意見があるということに価値がありますね。
米国市場全体を投資対象とするETFであるVTIです。このVTIのパフォーマンスや長期S&P500のパフォーマンスが経済的諸データを超越した説得力をもつように思います。