たぱぞうの米国株投資

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新・所得倍増論。潜在能力を活かせない「日本病」の正体と処方箋

 デービッド・アトキンソン氏、新・所得倍増論

 『新・観光立国論』でPHP研究所の山本七平賞を受賞した、デービッド・アトキンソン氏の著書です。軽井沢で隣家に小西美術工藝社の社主である小西美奈氏が住んでいた縁で、現在は小西美術工藝社で会長兼社長を務めています。ちなみに小西美術工藝社は国指定国宝・重要文化財の修理施工で実績ある会社です。

 

 2014年ごろから氏は文筆活動にも力を入れており、本書はその最新刊ということになります。

 

 もともとはイギリス出身で、オックスフォード大学で日本学を専攻し、世界5大会計事務所の1つだったアンダーセンやソロモン・ブラザーズ、ゴールドマンサックスといった企業で金融アナリストとして著名でした。

 

 ゴールドマンサックス時代は日本に駐在し日本経済新聞社から「銀行―不良債権からの脱却」という本も出版しています。1994年の出版ですから、その後の山一証券や北海道拓殖銀行を始めとする金融危機が本格化する1998年よりも4年も前にすでに不良債権問題を見通していたことになります。

 

 現在の職業柄、文化財にも深い造詣を持ちつつ、かつての本業のアナリストとしての視点も鋭いという著者です。

日本の高度経済成長とその後の経済停滞。その理由とは?

デービッド・アトキンソン 新・所得倍増論―潜在能力を活かせない「日本病」の正体と処方箋

デービッド・アトキンソン 新・所得倍増論―潜在能力を活かせない「日本病」の正体と処方箋

 

 日本は戦後大きな経済成長を遂げてきました。その大きな理由が「人口ボーナス」にあったとしています。戦後の人口の増え方は爆発的と言って良く、先ごろ出生数が100万人を割ったということがニュースになりましたが、戦後は250万人以上も出生数があったのです。

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http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/shakaihoshou/dl/07.pdf

 1950年からおよそ100年の人口推移と予測です。

 1950年以降の人口の急増がグラフから読み取れます。ちなみに戦後の高度成長期における人口推移の大きな特徴として3つあります。

  1. 労働人口の激増
  2. 老齢人口の少なさ
  3. 14歳以下人口の安定的推移

 

 特に多くの出生数に支えられた労働人口の激増は経済発展に大きく寄与しました。また、老齢人口の少なさは社会保障費の少なさに繋がりますから、効果的に公共投資という形で国家予算を経済成長に充てることができた時代でもあります。さらに、安定的な14歳以下人口は若い労働力の安定供給に繋がりました。

 

 第二次世界大戦後は日本だけでなく、世界の人口も増え続けましたから、消費の拡大という意味においてはこれ以上ない環境だったということが言えます。

 

 しかし、日本においてはこれから出生数低下に伴い、労働人口が激減してきます。激増するのは老齢人口であり、社会保障費であることは日本の明確な未来です。

 

 デービッド・アトキンソン氏は日本の戦後の経済復興は日本人のポテンシャルだけではなく、旧制度の破壊からの復興と人口ボーナスが大きく寄与していると結論付けています。

 

 そのうえで、バブル崩壊後の日本経済の停滞は生産性の見直しが行われなかったこと、労働の質的向上が見られなかったことが原因であるとしています。

 

 では、どの程度生産性に問題があるのでしょうか。デービッド・アトキンソン氏のあげる例は以下の通りです。

 

日本は「GDP世界第3位」の経済大国
→1人あたりGDPは世界第27位

日本は「輸出額世界第4位」の輸出大国
→1人あたり輸出額は世界第44位

日本は「研究開発費世界第3位」の科学技術大国
→1人あたり研究開発費は世界第10位

日本は「ノーベル賞受賞者数世界第7位」の文化大国
→1人あたりノーベル賞受賞者数は世界第39位

 

 一人当たり、で見ると決して世界的に高いというわけではないことがわかります。私たちは国に誇りを持つことは大事ですが、驕りを持ってはいけない、変革の心を持たなくては危機を乗り越えられないことは明白です。決して選民などではないということです。

潜在能力を活かせない「日本病」の正体と処方箋

 印象的だった処方箋は大きく2つです。

  1. 女性労働力の活用
  2. IT導入に伴う効率化

 ということです。女性労働力の活用は、「同一労働同一賃金」に近い発想ですが、今後は労働人口が縮小していくので、女性にもワークシェア、業務分担をする機会を増やしていこうということです。ただ、日本の長時間労働が評価されるシステムだとなかなかキャリアウーマン以外は難しそうですね。

 

 IT導入は情報共有やペーパーレスはもちろん、業務の流れ全体を効率化するようなシステム導入を進めるということです。ITに業務を合わせて改革するという発想です。実際、マンパワーに頼って力技でなんとかしているようなところがありますから、納得できるところです。ただ、導入するお金と発想が欠けている場合が多々ありますね。

読めば読むほど納得だが、難しい組織改革と生産性向上

 うろ覚えですが、エマニュエル・トッド氏が、「日本は江戸時代までは割と自由だった。しかし、相続を意識した家父長制が江戸時代以降に強固に導入された結果、上を立てる、上に従うという習慣が根付いて、組織においても自由な発想や改革が生まれにくくなっている」というような指摘をしていました。私はこの意見におおむね賛成です。

 

 それを考えると、困窮して本当にどうしようもなくなってから初めて生産性の向上が真剣に検討されるような気がします。

 

 今できること。さしあたって、長すぎる会議や要らない組織部会などを減らすことから始めたいですね。長時間労働を評価する、評価システムも変える必要があるでしょう。

 

 ・・・でも、そんなのは実際には無理ですね。障壁が多すぎます。

 

 生産性を上げるのは経営者である、と結論付けているところは日本型組織を熟知しているデービッド・アトキンソン氏だから言えることです。ボトムアップでの改革は日本型組織はほとんど無理と言って良いのではないでしょうか。私たち日本人は、同僚と空気を読み合い、上の意向をうかがって仕事しているからです。

 

 長い会議や根回しは合意形成をなにより尊重するからです。

 

 いずれにせよ、自らの労働観にも影響を与えてくれた良書です。そして、「生産性の高い成長国に投資しよう」と改めて思いました。人は変えられないけど、自分は変えられます。いつか日本の生産性が向上する日を信じて、投資で貢献したいです。

 

関連記事です。人口問題、労働力問題です。

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 デービッド・アトキンソン氏の母国イギリスは移民という選択をしました。

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