たぱぞうの米国株投資

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預金封鎖に備えよ マイナス金利の先にある危機

預金封鎖に備えよ マイナス金利の先にある危機

 預金封鎖とは、政府が借金だらけで破たん状態になった時、銀行預金など国民の財産に課税し、強制的に国庫に入れてしまうことを言います。多くは銀行からお金を引き出せないようにするために、銀行の営業も停止させます。 

 

 営業停止させた上で、引き出せない預金を強制的に徴収するのです。

 

 日本はかつて預金封鎖をしたことがあります。第二次世界大戦の戦費工面のため国債を大量に発行しました。当時のGDPの二倍に達し、返済のめどが立たなくなったために行ったのです。それが1回目です。

 

 ちなみに第二次世界大戦の戦費調達国債は日本国民以外に引き受け手がほとんどなく、国内で消化されていました。世界から支持されない戦争だったからです。

 

 日露戦争の戦費がリーマンブラザーズなどユダヤ系金融機関に引き受けられていたのは広く知られているところですが、対極と言って良いでしょう。ちなみに日露戦争の負債を払い終えたのは1986年、実に戦争後81年かかって返しています。

 

 なお、日露戦争の負債はドル建て、あるいはポンド建てですので、円の激しいインフレは関係ありません。

 

 話を戻します。日本の預金封鎖はその後、戦後すぐの新円切り替えの時にも行っています。このときは預金封鎖と財産税徴収をセットで行いました。

 

 まず、旧円での銀行引き出し額を世帯主300円、世帯員100円までの引き出しにします。一家四人で600円です。当時の初任給が550円程度でしたから、今でいう20万円ぐらい、一か月なら糊口をしのげる額です。

 

 そして新円を発行し、銀行口座にあった旧円は使えなくなるという荒業です。国民の預貯金がそのまま財産税として政府の国庫に収まりました。

 

 現在、日本国債発行が1000兆円を超え、日銀の国債買い取りが半ば公然としている中、円の信認はどうなるのか、という心配があります。本書はその心配に答える内容になっています。

預金封鎖に備えよ マイナス金利の先にある危機

預金封鎖に備えよ マイナス金利の先にある危機

 

小黒和正氏の経歴

  著者の小黒和正氏は京都大学理学部卒業後、経済学の修士を京都大学で、博士を一橋大学で修了しています。

 

 その間旧大蔵省に入省し、 財務省財務総合政策研究所主任研究官や一橋大学経済研究所世代間問題研究機構准教授を経て、現在は法政大学経済学部で教授をしています。アラフォーであり、新進気鋭の学者といったところでしょうか。

 

 行政にも通じており、学者として理論にも精通しているというところが小黒和正氏の強みです。

 

 小黒和正氏はアベノミクスに否定的で、2%の物価目標や消費税増税先送りも批判していました。

 

 なかなかキャッチーなタイトルだけあって、中身はわかりやすいものになっています。目次を引用しておきます。

◆序章 預金封鎖への道
増税延期で現実味を帯びてきた「財政破綻」
「異次元緩和」の限界は数年後に訪れる
金融政策とは、現金と国債の等価交換に過ぎない
金融政策の原資は私たちの預金
金利正常化で財政はにわかに逼迫
マイナス金利政策で「預金課税」へ
国債とともに預貯金が消滅?

◆第1章 消費税増税なくして財政再建なし
消費税増税延期の衝撃
なぜ増税が必要なのか
「8%への消費税率引き上げが経済に悪影響」の嘘
軽減税率の導入は、百害あって一利なし

◆第2章 失敗だらけの金融政策
「マイナス金利政策」はやがて行き詰まる
マイナス金利はデフレを深刻化させる
「国民負担なき財政再建」の虚妄1――量的緩和は〝打ち出の小槌〟ではない
「国民負担なき財政再建」の虚妄2――新規国債発行か預金課税かの2択
日銀がマネタリーベースを拡大しても、民間融資は増えない

◆第3章 財政再建、待ったなし
将来の債務残高のGDP比は320%超に
財政再建の本気度が伝わらない理由
社会保障改革は難しくない
「ヘリコプターマネー」は日本を救うか

◆第4章 終戦直後の教訓――財政はいかにして〝健全化〟されたのか
国民の激しい痛みなくして財政健全化なし
イギリスの財政健全化は日本の参考になるか

◆第5章 財政危機に「出口」はあるか――国と個人の〝処方箋〟を考える
財政危機はどのように訪れるか――東京財団の政策提言より
日銀の「脱出戦略」のカギは預金封鎖にあり
資産防衛の決め手は「仮想通貨」か

 

預金封鎖とインフレという最強最悪の手段

 2020年に東京オリンピックが開かれます。ロビイストめいた利害関係者の綱引き合戦は今まさに佳境を迎えており、東京都のみならず国家の借金もまた増えることでしょう。

 

 また、団塊世代の平均年齢が2020年には75歳になります。平均寿命を考えると、医療費や介護費をはじめとする社会保障費のさらなる増大が見込まれます。

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日本の政府総債務残高(対GDP比)の推移(2012~2021年)  世界経済のネタ帳

 

 その時に国債はどれだけの額になっているのでしょうか。間違いないのは、おそらく円建てで、国内で消化される国債がほとんどだということです。極端な多額の円建て国債は国民に負担を強いる結末を迎えているのは歴史が証明しています。ドル建て、ポンド建ての国債はきっちり償還されています。

 

 土地、建物、金銀、株式、外貨が預金封鎖の時には有効でした。戦後すぐの預金封鎖で大きく資産を伸ばしたのが森ビルで有名な森泰吉郎氏です。氏は当時、現在の京都工繊大の教授で、副業で不動産業を行っていました。その後、横浜市立大商学部長をされています。

 

 インフレ時には借金がどんどん希釈されます。そのため、借金をしては土地を買い、高付加価値の建物を建て、高度成長期に資産を大きく伸ばしました。

 

 一時は世界長者番付のトップになるほどの勢いでした。今も森ビル創業家は世界の長者ランキングに名を連ねます。日本だと常にトップ10に入ります。

 

 もし、インフレを起こし、円安誘導すれば、円建ての国債は大きく希釈されます。そのかわり、国民の財産、とくに現預金は大打撃を受けます。また、年金も実質大きく目減りします。

 

 そういう意味では預金封鎖とインフレというセットは円建て日本国債を減らすには最強最悪の手段ということになります。

 

 今の財政が大変な状況にあることは事実ですが、戦後すぐの状況とはまた違います。どのような対応を日銀と政府がするのか。そして私たちはどのように自分たちの暮らしを守るのか。

 

 壮大な社会実験が始まろうとしています。 

  預金封鎖への考え方と対策はこちらの記事。

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