退職金での運用は、営業のターゲットになりやすい
退職金が手に入り、資産運用に本腰を入れようとする人が多いように思います。しかし、相場慣れしている人ならばともかく、あまり芳しい結果を生まない例も散見されます。
時間ができるために相場に張り付き、デイトレめいたことをして資産を失う人。はたまた、金融機関のお誘いにのり、買わなくて良い投信を買ってしまう人。はたまた、利回りにつられ新興国通貨関連商品に全力ではる人。いずれも、投資経験が浅い人が、運用の魅力に惹きつけられて、痛い目を見るという結果が後を絶ちません。
中でも、信頼できるはずの取引先の銀行さんに声をかけられ、退職金や相続したお金を減らす例が多いように思います。全てをご紹介するのはさすがに無理ですが、その一例をご紹介したいと思います。
退職金で資産運用をしようとしたら、そこにはワナが・・・
初めまして、いつも楽しくブログを読ませてもらっています。勉強になることが多く感謝しています。
私は定年退職した60歳台の初老の男性です。退職金が入るとすぐに取引銀行から、投資の勧誘がありました。銀行に行くと証券会社の課長と担当者(部下)が待っており、外貨建て債権をすすめられました。
新興国建て割引債です。通貨は今は底値である。3年後には必ず上がって差額が入ってくる。こういうのをコアとして持つべきだといわれました。トルコはもともと国力があり大国である。かっては70円位あったので必ず上がると。
私は1000万円買いました。その時は上がると信じたのです。しかし、その後、リラは下降の一途をたどり、かなりの損失が出ています。
今悩んであるのは、この外貨をそのままリラで保有し、上がるまでじっくり塩漬けにして10年間持つか。それとも満期時にリラを円に換え、他の外国ETFなどを購入して10年間運用するか。どちらが賢い運用の仕方でしょうか。さしあたって使う当てはありません。
よかったら、たぱぞうさんのご意見をお聞かせください。
退職金の運用は、とにかく安心、安定をめざす
実は、質問者様のような例は少なくないのですね。他にも、同じような形で数千万円を新興国由来の商品につぎ込み、数百万負けている方が大勢います。マージンが大きい商品で、売り手にとってはうまみがあるのですね。
売るほうも良心が痛む商品ですが、買うほうは懐が痛むという構図になっています。とにかく、収入が限られるのが退職後ですから、退職金の運用は堅実なものが一番です。そう、現金を始めとする安心、安全な資産が良いのです。
そうなると、為替リスクを負う時点で確実性は薄らぎますから、通貨はせいぜいドルやユーロまででしょう。
トルコリラや南アフリカランド、ブラジルレアルなどは「伝統的なおやんちゃ通貨」です。もう、20年以上前から目先の金利で顧客を誘い、全く儲からずに損切りさせるということを繰り返しているのです。
居合わせた銀行の担当者さん、証券の支店長さん、みんな見てきているはずですが、言わないのですね。言えないのです。それほどに日本の金融機関の収益性は落ちており、信用を犠牲にした、持続不可能なリテール商品販売で収益を上げざるを得ない支店があるのですね。
高金利金融商品は避けるのが鉄則
ここではトルコリラ円のチャートを出しますが、経常赤字や財政赤字を常とする新興国通貨はおおむねこのように通貨安がついて回ります。トルコ、メキシコ、南アフリカなどですね。さらにはドル建て債務が大きかったり、政局が安定しなかったり、インフレ抑制が機能しないと、まず反発することはありません。
同じ新興国でもアジア諸国とトルコや南アが違うのは、これらの要素が違うからです。そういう意味では、後者は通貨安の要素が揃いすぎており、過去のチャートをみて反発を予想するのは、銀行の担当者さん、証券の支店長さん、金融のプロとしては微妙な発言です。
株式でいうと、ファンダメンタルズを見ずにテクニカルだけで判断するようなものです。
直近は通貨安の影響による輸出の好調さで経済は落ち着きつつあるように見えますが、いずれこれは帳尻を合わせてくるでしょう。また、新興国にありがちな独裁色の強い政権下では高金利にものを言わせたファイナンスにも限りがあり、これも通貨安の原因の一つになります。
いずれにしても、長期で保有するようなものではありません。目先の高金利はインフレを担保したに過ぎず、債券発行体は傾向から判断するにおそらく健全とは思いますが、通貨が健全ではありませんので資産運用に資するものではないのです。
目先の高金利に惑わされず、ファンダメンタルズのしっかりした通貨、国に投資をしていくのが退職金運用には欠かせない視点となります。多くの方にとって示唆に富む、勇気あるご質問ありがとうございました。スパッと再スタートをお勧めします。
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広げなくてもよい幅もありますね。
無理せず簡単に、シンプルな商品が良いという話です。
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