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「老いる家 崩れる町」住宅過剰社会の末路

「老いる家 崩れる町」住宅過剰社会の末路

  2016年11月に刊行された新書版です。著者は野澤千絵氏です。野澤千絵氏は大阪大学で環境工学修士、東京大学で都市工学の博士課程に学び博士号を取得された研究畑、学術畑の方です。現在は東洋大学で教授をされています。

 

 本書は野澤千絵氏の専門分野である都市工学の面から街づくり、住宅問題について言及した本ということです。新書版だけあって、専門的な知識が無くても、それを補う豊富な資料が理解を深める手助けをしてくれます。

 

 ○○の末路、というブロガー流行りのキャッチコピーはおそらく編集者が売れ筋タイトルを考える都合上付けたものでしょう。中身は分かりやすいですが、比較的硬質な内容になっています。

老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路 (講談社現代新書)

老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路 (講談社現代新書)

 

不動産投資や住宅購入を考える人は読んで損はない

 不動産投資や住宅購入を考える人は読んで損はない本です。十分に750円のもとは取れます。

 

 現在すでに日本の住宅は800万戸の空き家があると言います。それが、わずか今後15年で2100万戸に増えるという資産があります。この、2100万戸という数字は、日本の住宅戸数総数でみると実におよそ三分の一に上るということです。

 

 この状況で、持ち家の転売、あるいは不動産投資でキャピタルゲインを得ようとすることは大変難しく、それこそセンスが求められるでしょう。ただし、地方と東京でも状況はかなり違います。

 

 今の日本は東京という巨大な、ある意味では国家レベルのコンパクトシティが地方の労働力を吸い上げている構図です。そのため、東京都下における人口減少はまだまだ実感がありません。しかし、地方はすでに人口減少問題は切実な問題になり始めています。

 

 21世紀初頭までならば、北海道の札幌、東北の仙台、中京の名古屋、近畿の大阪、中国の広島、九州の福岡といった主要政令市が地域の人口を集めていました。また、それに見合った仕事も供給できていました。

 

 しかし、これからは東京以外の都市はスピードの差こそあれ急激に人口が減っていくことになります。それでも、都市部はまだまし、といえます。

 

 深刻なのは、これらの都市部の周辺部に作られた拡大部分です。この拡大した街から住民がどんどん流出し、スポンジのように空き家が増えていくというのです。

スポンジ化する大都市周辺部

 このスポンジ化のデメリットは、生活インフラの維持に莫大な税金がかかるということです。水道、電気、道路は作って終わりではなく、維持費がかかります。住民が多ければ税金で共同負担し、維持することが可能です。

 

 しかし、まばらに人が住むようになると、十分な税金が集まらないのに維持費は同様にかかるようになります。その結果、十分な手入れがされなくなり、ますます住民は流出するという負のスパイラルが始まります。

 

 急激な人口減を招いたかつての炭鉱の町、夕張がその危機に直面しています。夕張に限らずこれらの自治体が取り組んでいるのがコンパクトシティ、つまりインフラや住民を集中し、効率的な維持管理をしようということです。

 

 しかし一方で、どの街でも慣れ親しんだ土地を離れたくない住民も多くいます。そのため、なかなか簡単に物事は進みません。人の心は木石ではありませんから、時間をかけた対話が必要になります。

人口減少社会でも止まらぬ住宅の建築

 住宅を作りすぎているとする警鐘として、ここでは3つの例が紹介されています。

  1. 都市部の超高層マンション
  2. 郊外の新築住宅
  3. 賃貸アパート

1「都市部の超高層マンション」

 これは具体的には東京の湾岸部を特に指しています。行政の思惑も重なって、規制緩和が行われた結果、大量の超高層マンションが林立している場所です。

 

 関連して、東京は今後相対的に貧しくなるという見解が紹介されています。すでに高齢化が進んでいる地方に比べて、今はまだ労働人口が豊富な東京ですが、これからこの多くの労働人口が高齢層になります。

 

 すると、社会保障費が増大するため、インフラ維持に回せるお金が十分に確保できない見通しだというのです。

 

 東京オリンピックでは既存施設の活用が叫ばれています。それは、既存インフラの維持だけでも精一杯な財政問題が透けて見えます。全国で更新が必要な老朽化したインフラ整備のために必要な予算が4割足りないと言われています。

 

 そうした東京でさえも縮小する中での超高層マンション、特に投資物件のあり方は大変難しい問題になってくると見通しています。

 

2「郊外の新築住宅」

 これは先に述べたスポンジ化の懸念です。事例として首都圏の川越市の都市開発状況、和歌山市の市街化調整区域の緩和問題が取り上げられています。

 

3「賃貸アパート」

 賃貸住宅は現在すでに1年で35万戸ペースで増えていると言います。そして、全国の空き家800万戸のうち400万戸がこの賃貸住宅です。順調な建築ペースと人口減少ペースが相まって、今後この数字は増えることはあっても減ることはないでしょう。

 

 ここでは市街化調整区域を外れたとたんに賃貸アパートが急増した羽生市の空室問題が取り上げられています。

 

 人口減少社会での不動産のあり方、考え方を知る上での良書だと思います。

 

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