ものぐさ投資術、すべての人におススメしたい投資の本
モーニングスター代表の朝倉智也氏によるPHPビジネス新書です。私はこの本は投資に関わる和書のなかでは出色の名著だと思いました。投資に興味があるすべての人におススメしたい本です。理由があります。
- 初心者でも比較的わかりやすい
- 米国株投資に重きを置いている
- インデックス投資重視
- リスク分散のしかたがシンプル
- 安い
新書なので安いです。850円でこれだけのことが学べるのは本当に安いです。しかも和書で米国株投資に比重を置いた本は多くありません。為替リスクがあるとか、買い方が難しいから、とかそういった理由で初心者に米国株投資をおすすめしないのです。
しかし、朝倉智也氏は明確に米国の成長性に基づいて、はっきりと米国株、米国ETFを投資の柱に据えるべきと主張しています。根拠の1つとして、世界のGDP上位五か国であるアメリカ、中国、日本、ドイツ、イギリスの名目GDPの伸び率比較が1章に掲載されています。
1980年と2015年を比較して規模順に米国は3.2倍、中国は25倍、日本は1.36倍、ドイツは2.7倍、英国は3.1倍の名目GDPの成長です。この五か国の中で日本がダントツの最下位になっています。倍以上、が当たり前になっている他国に比べ、日本はたったの36パーセントの成長なのです。
利益の上がらない会社でがむしゃらに働いても給与が増えないのと同様に、経済成長が鈍化している国の株式市場が成長するはずがありません。このことを明確に指摘しています。
また、日本の現状と将来の解説も参考になります。1章の目次から引用します。
- 昔は100万円の三年貯金で利息は20万だったが、現在の利息は3年でたったの750円
- 知らない間に、貯蓄型の保険の貯蓄性も大幅に低下、「保険に入れば安心」は昔の話
- これまでは銀行に預金して、ローンで家を買えばいい「置いておけば増えた」時代だったが
- 日本銀行が導入した「マイナス金利」とは果たしてどのようなものなのか
- 実は、マイナス金利が導入される以前から「置いておくと減る」時代だった
- 「昔と同じ仕事でかつてほど稼げない時代」を今の日本人は生きている
- 規制だらけの日本では有望な新ビジネスは生まれず、産業構造の変化が起きない
- 「新三本の矢」で掲げた子育て支援で本当に出生率を上げられるか?
- 少子高齢化で現役世代が減るこれからの時代は、「老後にもらえるお金」がどんどん減る
- やっぱり消費税率の引き上げは10%では止まらない!?
どれもこれも正鵠を射る指摘です。特に同意するのが「規制だらけの日本では新ビジネスは生まれない」という主張です。
どの業界でもとにかく法律、手続きが煩雑で、ルールを作ることに血道をあげている間に、日本はずいぶんと先進諸外国から遅れをとるようになってしまいました。
これは立法や行政だけの責任ではありません。企業でも本業以上にルール作りに熱心なところはたくさんあります。
真面目さや勤勉さは私たち日本人の美徳ですが、マイナスに作用している面も直視しなくてはいけません。豊かな発想を枠ではめ、既得権益を守ろうとするあまりに自縄自縛の経済停滞国にこのままではなってしまうのではないかと懸念します。
朝倉智也氏の説く投資の王道
朝倉智也氏は投資には王道があるとして3つの方法を説いています。
- 世界中の資産に「分散投資」し、リスクを減らす
- 株や為替の値動きに一喜一憂しない「積み立て投資」
- 「長期投資」で時間のリスクも分散させる
という方法です。簡単です。信託報酬の安い海外ETFを時期をずらして購入し、長期保有すればよいだけです。ちなみに朝倉智也氏はノーロードの積立可能な投信を薦めています。
ちなみに氏の主張するポートフォリオ例が掲載されていました。
国内株 10%
先進国株 40%
新興国株 20% 株式70%
先進国債券20%
新興国債券10% 債券30%
株式70%というのは私も目安にしている数値です。ただ、中身はだいぶ異なります。国内株と新興国株はVTでしかもっていません。比率で言うと国内株、新興国株、両方合わせても1%です。分散投資という意味では少々アメリカに偏っています。
それから債券はこのごろ微妙ですので私はもう少し比率を低く、現金比率を厚めにしています。BNDが気になっていますが手をつけていません。以前のように社債や国債の生債券を買うのも手かもしれませんが、これも手を付けていません。
こういうたたき台をプロが示すのは非常に参考になります。自分のポートフォリオと比べて考えるきっかけになるからです。
近年目を通した投資本の中ではもっとも参考になる一冊であることは間違いなく、今後も複数回読み直すことになるでしょう。