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JR北海道の経営に日本の将来を見る

JR北海道の経営状況がすさまじい

 JR北海道の赤字体質は他人ごとではありません。JRだけでなく、札幌圏以外の町村の地方交付税交付金や国庫支出金の割合の大きさは殆ど危機的と言って良く、もはや国の支援なしでは成り立ちません。

 

 しかもJR北海道は全路線において赤字です。赤字路線を廃止して、黒字路線を残せば経営的には立て直しができます。しかし、全路線赤字ですから、そういう単純なことでは立て直せません。

 

 収益性の低さは群を抜いています。

JR北海道の営業係数が苦境を物語る

 100円の営業収益を上げるために、どれだけの営業費用を要するかという数値があります。それを営業係数といいます。

留萌線・留萌~増毛 2538(4554)
札沼線・医療大学~新十津川 2213(2162)
日高線・苫小牧~様似 2125(1179)
根室線・富良野~新得 1854(1591)
留萌線・深川~留萌 1342(1508)
石勝線・新夕張~夕張 1188(1421)

 

中略

 

函館線・岩見沢~旭川 147(143)
海峡線・木古内~中小国 134(126)
石勝/根室線・南千歳~帯広 127(130)
室蘭線・長万部~東室蘭 115(135)
札幌圏 105(107)

JR北海道全路線の輸送密度・営業係数ランキング2016年版。全体的には前年並みも、留萌線は大幅改善 - 旅行総合研究所タビリス

 

 カッコ内は前年です。2016年末に廃線になった留萌~増毛間は100円稼ぐのに2500円もかかります。もっとも採算が取れるはずの札幌圏でさえ、105円です。つまり、どこを走らせても、営業すればするほど赤字になるという負の連鎖です。

 

 また、JR北海道の駅は453駅、そのうち3割が1日の利用客が10人以下です。さらに60駅近くが1日1人以下の利用客です。これでは採算が取れるほうが不思議です。

JR北海道、厳しさ浮き彫りに 58駅が乗車1日1人以下 全体の13% | 乗りものニュース

JR北海道の平均輸送量の少なさ

 平均輸送量とは、1kmで何人運んでいるかという数値です。平均通過人員とも言われます。これの採算ラインが1500人~4000人です。4000人を割るとバス路線に切り替えたほうがよいとされています。

 

 ちなみにトップ3は以下のようになっています。山手線は日本でもっとも収益性の高い路線です。赤羽線、東海道線と主要路線が続きます。

 

 1位山手線 108万人

 2位赤羽線  73万人

 3位東海道線 35万人

 

 JR北海道のワースト3です。

 

 1位留萌線 149人

 2位日高線 312人

 3位釧網線 485人

鉄道ニュース週報 (31) JR北海道「鉄道維持困難」を表明 - もっと輸送密度が低い路線はどうなる? | マイナビニュース

 

 ケタが違います。もはや人よりも空気を運んでいるような状況になってきています。

JR北海道、経営危機の理由

 ここまで苦境に陥った原因は主に3つあります。

  1. 道内過疎地において顕著に人口が減り続けている
  2. モータリゼーションが進んだ
  3. 赤字路線が政治的理由などで廃止できない

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 1つめに北海道は札幌に人口が集中し、それ以外の地域の人口流出が止まりません。これは九州における福岡、東北における仙台と似たような状況ですが、北海道のほうがより激しいです。日本における東京のようなものです。

 

 2つめに人々の交通手段が自動車になったということです。モータリゼーションの進展は日本の高度成長と重なります。所得が増え、どの家庭も車を持つようになり、移動手段は鉄道のみという状況ではなくなりました。

 

 駅前の土地を買い、そこに店舗を進出させ、それを担保にしてさらに新規出店をする、という鉄道ありきの経営戦略だった小売企業は軒並み倒産の憂き目に遭っています。その代表例はダイエーということになります。時代の変化が読めなかったのです。

 

 逆に幹線道路沿いの比較的安い土地に進出し、広大な駐車場を設け、うまくモータリゼーションの波に乗ったのがイオンです。都会ならば駐車スペースと通勤の都合上、鉄道近接の店も競争力があります。しかし、郊外では自動車のほうが利便性が高く、企業戦略がガラリと変わります。

 

 つまり、地方は鉄道への依存度が都会に比べて低いのです。

 

 3つ目が地域住民の意見、つまり政治です。政治的な理由から簡単に廃線にできません。町の鉄道駅が無くなるという心理的ショックは小さくなく、普段は利用しないのに存続はしてほしいということになります。ミクロな民意がマクロな国家財政を圧迫するのは日本の小選挙区制が招く当然の結果とも言えるでしょう。

 

 その結果、ずるずると赤字路線の経営をすることになります。ただ、深刻なのはJR北海道の場合は赤字路線を維持するための黒字路線が無い、ということに尽きます。JR東日本も多くの赤字路線を抱えますが、首都圏のドル箱路線がそれを支えています。

JR北海道の予想される経営改善策

 大きく3つあります。

  1. 上下分離方式
  2. JR東日本による救済合併
  3. バス路線化など自助努力

 

 1の上下分離方式というのは、バス会社を思い浮かべると分かりやすいです。バス会社はバスの整備と運行を負います。道の整備や信号の整備は国や県がします。北海道の鉄道インフラを国や北海道が整備し、JR北海道は車両整備や運行を負うということです。これならば、出費はかなり抑えられ、黒字化が見えてくることになります。

 

 反面、また都市部に過疎部の負担を強いることになります。国が鉄道インフラにお金を出すということだからです。これはそのまま地方交付税交付金や国庫支出金で地方財政を支える中央政府という構図と同じです。

 

 2のJR東日本による救済合併も基本は同じです。首都圏というドル箱路線を抱えるJR東日本に負担をさせるのです。JR西日本が大阪を基本にして中国、特に山陰地方を支える構図です。ただ、この不採算性はやはり都市部の運賃に反映されることでしょう。

 

 3は自助努力です。赤字路線を廃止し、バス化していく、そして運賃を今以上に上げるということです。人員削減などの効率化も要求されるでしょう。ただ、これがすぐにやれるならとっくにやっています。地域住民の説得、政治的配慮、手続きの煩雑さは想像に難くありません。

 

 また、全てが赤字路線なのです。枝葉の赤字路線を廃止しても、主要幹線がすでに赤字、そこに難しさがあります。枝葉の赤字路線はもともと単線だったり、究極までコストカットしているので赤字額自体は小さく、経営体質を根底から変えるものではありません。

JR北海道の撤退戦に注目したい

 私はJR北海道の撤退戦に注目しています。今後は足し算の発想で増やすのではなく、引き算の発想で事業ポートフォリオを減らしていく戦いになるでしょう。そして、それはJR北海道だけの問題ではありません。

 

 なぜならば、今後人口減社会を日本全体が迎えるからです。あの関西圏の中心地、人口集積地である大阪でさえすでに人口減に転じています。

 

 九州、四国はもちろん、本州でも鉄道路線の廃止が検討されるようになるでしょう。

 

 そして、鉄道だけでなく、同様にインフラである上下水道や道路も維持管理にお金がかかります。住むところを集中させ、インフラ維持費を削るというのは現実的ですが、実現性においては乏しいところがあります。

 

 今までは足し算の発想で日本は発展してきました。道路を作る、鉄道を敷く、上下水道を整備する、そうやって便利にしてきました。しかし、人口が減る中、それらに膨大な維持費がかかり始めています。そしてそれが国の財政を圧迫し始めています。

 

 今後どのように縮小させていくのか、どのように困難な時代を乗り切っていくのか。これをやめる、あれをやめる、引き算の発想で生きていく時代になりつつあります。

 

 JR北海道の経営改善はその試金石の1つになるでしょう。

 

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 本当は下記の記事とセットにしたかったのですが、長すぎるので2つに分けました。

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