たぱぞうの米国株投資

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出光興産をめぐる増資の攻防

出光興産の増資

 めったに日本株に関しては記事にしないのですが、出光興産が昔を思い出す株価推移をしていますので、取り上げたいと思います。結論から書いておきます。やはり日本企業は既存株主の立場が弱く、投資対象としては非常に難しいということです。

 

 さて、その出光興産ですが2015年に昭和シェル石油との経営統合の合意をしました。この決定に対し、出光佐三氏以来の創業家が反対をしています。創業家は今も大株主ですので、その意向は無視できません。

 

 創業家の反対を受けながらも、統合方針を進め、出光興産の現在の経営者側は昭和シェル石油との合併を2016年に発表します。そもそもこの合併は、原油価格低迷に伴う国内石油関連会社の統合を経産省が推し進めており、それに乗った形です。

 

 その結果、創業家はさらに態度を硬化させています。

出光興産の社風と上場

 もともと出光興産はカリスマ経営者である出光佐三氏のワンマン経営で上手く回っていた会社でした。最終的な意思決定権は創業者である出光佐三氏に集中しており、各部門の長は直談判で経営判断を仰ぐという構図でした。

 

 大家族主義、人間尊重、定年無し、残業代無し、非上場、労組無し、という独特の社風が出光興産の強みにもなっていました。それは佐三氏が引退してからも変わらず、創業家に決定権がある状態でした。

 

 しかし、1990年までの過剰投資により、出光も経営手法の変革が求められます。各部門が創業家に直接交渉で予算を引っ張り、投資をするというスタイルが経営危機を招きかねない状況になったからです。

 

 その後、有利子負債が膨らみ、格付け機関から投機的レベルの格付けをされます。金融機関の信頼をつなぐために、創業家に依存した意思決定システムの見直し、そして上場が検討されます。

 

 このときに会長だったのが出光昭介氏です。出光昭介氏は佐三氏の長男です。5代目社長でもあります。そして、今の経営陣の方針に猛反対をしており、このときの上場検討にも当初反対の姿勢を貫いていました。創業家ありきの経営を守ってきた人物とも言えます。

 

 これに対し、合議形式の現代的経営方法の導入に奔走し、銀行からの資本受け入れ体制を築いたのが当時の天坊昭彦社長でした。今の経営陣、月岡隆社長に連なる系譜はこの天坊昭彦社長時代から始まっていると言ってよいでしょう。

 

 その後、もろもろの障壁を乗り越え、2006年に出光興産は上場します。

上場後の出光興産

 上場後の出光興産は、有利子負債の圧縮を目指し、経営体質は改善したかのように見えました。しかし、直近では折からの原油安を受けて、2期連続の赤字になっています。

 

 合併相手の昭和シェル石油も経営は楽ではなく、太陽光発電事業に乗り出すなど、経営の多角化を急いでいます。

 

 米国のシェールオイル増産に伴い、従来の利益構造が全世界的に変化してきているのが石油業界であり、もともとの規模、利益体質が世界の石油会社に比べると強くない日系石油会社はどこも苦戦しています。

 

 そのため、現経営陣としては合併して生き残りを図りたいところですが、それは創業家の影響力の低下を招くという側面があります。いまだに創業家は出光興産の三分の一の株式を保有しており、株主総会で拒否権を発動する株式数を握っています。

 

 これを希釈化するために、現経営陣は公募増資をするという流れです。経営陣と創業家の行き違いは今に始まった話ではなく、1980年代の過剰投資、ワンマン経営時代の名残、これらが影響したものだと言えます。

会社は私物か公共物か

 結局この争いというのは、会社は私物であるのか、公共物であるのかというところに行き着きます。出光佐三氏のような優れた創業者の経営判断は時に素晴らしい効率経営と業績成長をもたらします。

 

 たとえばソフトバンクの孫氏がそうであり、Amazonのジェフ・ベゾス氏やFacebookのマーク・ザッカーバーグ氏がそうなのでしょう。出光昭介氏もハーバード大出のやり手の二代目でした。

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 ただ、この創業家と経営陣の争いが異質なのは、その期間の長さです。上場によって変わるかと思われた流れが、本質的には何も変わっていなかったことを窺わせます。上場直後は経営改革期待から買われましたが、その後2000円前後に落ち着いています。

 

 その後、2016年に入り、経営統合をめぐる期待感から買われています。4000円近くまで上昇したのがそうです。しかし、2017年7月に入り、経営者側が大規模公募増資案件を仕掛けると、株価は急落しています。

 

 これは、希釈化を懸念した既存株主が失望売りをしたからです。この増資が完了すれば、創業家の持ち株比率は26%まで低下し、合併に反対できなくなります。

 

 ここでは完全にその他の既存株主は不在です。既存株主の権利も同時に希釈化するにも関わらずです。かつて日本企業で頻発したMSCBとは目的が異なりますが、株主の力が全く及ばないところでの決定事項という意味では性質は同じと言ってよいでしょう。

 

 これが日本株投資の最も難しいところだと私は感じています。既存株主の尊重というのが殆どされないところです。しかも、出光興産レベルの大企業でさえ、こういう意思決定、すったもんだがあるというところがポイントです。

 

 誰もができる投資術を目指す身としては、やはり米国株、とくに米国ETFに魅力を覚えます。しかし、このようなボラティリティをうまく利益に転嫁できる投資家は千載一遇のチャンスとなるでしょう。

 

 しかし、私のような普通の個人投資家にとっては手出し無用のプロの相場が始まったと言えそうです。

 

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